サマリー

Tech Fairは、企業が米国特許商標庁 (USPTO)の審査官に対して自社の注目技術のプレゼンテーションを行うUSPTO主催のイベントです。質疑応答を含む1時間で、特定の審査部門の数十名の審査官に対し、その注目技術に対して自社がどのようなアプローチで研究開発しているかを説明することができます。また、PETTPという審査官向け教育プログラムにおいて、同様の技術プレゼンテーションを行うこともできます。

Tech FairやPETTPに参加するメリットは、自社の特許出願を審査する審査部門の審査官と良好な関係性を構築し、自社技術の革新性をアピールし、それにより今後の自社出願の審査が円滑に進むことが期待される点です。弊所の多くのクライアント様がこの機会を活用し審査を有利に進めておりますので、ご興味ある方はぜひお知らせください。

背景

USPTOでは、毎年、各審査部門(Technology Center: TC)毎に、出願人である企業側がUSPTOの審査官に対して自社の注目技術のプレゼンテーションを行うTech Fairというイベントを開催しています。それ以外の時期には、Patent Examiner Technical Training Program (PETTP[1])の一環として、企業が特定のTCの審査官やTC内の特定のArt Unitに対して行う個別の技術プレゼンテーションを、特別に手配することができます。

コロナ禍において、出願人の皆様が代理人とともにUSPTOを訪れて、対面での審査官インタビューに同席し、技術の重要性を説明するといった機会が制限されている現在の状況において、自社の注目技術を審査官に直接アピールし、また自社の出願を審査する審査官達とコネクションを作り今後の権利化を有利に運ぶため、是非Tech Fair及びPETTPを活用して頂きたく、紹介致します。2021年に弊所では、数多くのTech Fair及びPETTPを手配し、審査官及びクライアント企業の双方から感謝の声を頂きました。

Tech Fair/PETTPの概要

一般的に、各企業が約1時間の持ち時間(プレゼンテーション:30-45分程度、及び、質疑応答:残り時間)で、審査官に向けて英語で技術内容を説明します。コロナ前は、USPTOに実機を持ち込んでのデモ実演等も可能でしたが、コロナ禍の現在は、ビデオ会議(USPTO側から招待されるMicrosoft Teams)にて行っています。毎回、50人程から、多い場合は100人近い審査官が集まります。

PETTPにおいて行う発表も基本的には同様ですが、Tech Fairとは別枠で、責任のある審査官とコーディネートする必要があります。

Tech Fair/PETTPのメリット

Tech Fair/PETTPの直接的なメリットとして、自社の特許出願を審査する審査部門の審査官に、自社の革新的な技術内容を深く理解してもらえること、また、それにより今後の自社特許出願の審査が円滑に進むことが期待されます。例えば、プレゼンテーション実施後に、個別の案件で審査官インタビューをする際に、審査官に、『Tech Fair/PETTPで見たあの技術』と認識してもらえることが期待されます。

また、通常の審査官インタビューでは十分に紹介することができないような、実機での検証実験の様子や検証データなどを、写真・図・グラフ等を用いて分かり易く説明することができます。併せて、自社のビジネス状況・業界内での立ち位置・優位性・独自性をアピールすることで、企業自体の認知度を高めることにもつながります。

特に、出願人の企業が、当該技術を審査する審査部門の部門長を含む審査官たちと直接面識を持ち、強いコネクションを作れることのメリットはとても大きく、後に様々な場面で役立つことになります。このようなコネクションの大きなメリットの一つは、Tech Fair/PETTPによって当該技術を知った審査官が、しばしば我々代理人に非公式に連絡を取り、効率的に出願審査を進めるために協力することです。例えば、最初のオフィスアクションの前に審査官から弊所に連絡があり、出願を許可に近づける方法を提案されたことが何度もあります。これは、権利化コストを低減し、包袋禁反言の量を減らすための優れた方法となります。

また、審査官や上席審査官を個人的に知っていることで、会社の特許ポートフォリオ全体の難しい問題に対応することができるようになりました。例えば、以前、あるクライアント企業の特許ポートフォリオにおいて、101条の拒絶が不当に多く、拒絶に一貫性がないという問題があったとき、その審査部門を担当する審査部門長に連絡して、問題解決のための協力を仰いだことがあります。審査部門長は、TC内の上席審査官と審査ポリシー担当者の全員を招いて、我々及びクライアント企業との打合せの場に同席させ、101条拒絶と一貫性のない処理を回避するためのプロセスを共同で策定しました。その結果、そのクライアント企業の許可率は劇的に向上し、審査官との協力関係も劇的に改善されました。

このように、Tech Fair/PETTPは、通常の審査官インタビューとは異なるアプローチではありますが、プレゼンテーションを通じて審査官と深く繋がることができ、結果的に、その後の1件1件の自社特許出願の審査に大いに役立つ手段となり得ます。

Tech Fair/PETTPの詳細

[申込み方法]

弊所では日頃より、弊所クライアントの出願を担当するTCの審査官・上席審査官・部門長と密接で良好な信頼関係を構築しております。その為、あるTCで次回のTech Fairの開催が企画されると、開催日の数か月前に、そのTCの上席審査官(Supervisor Primary Examiner: SPE)等から弊所弁護士に対し、次回のTech Fairの参加企業として適切なクライアントがいないかという打診を受けることがあります。この打診に対し、弊所では、その技術分野で注力して出願しているクライアント企業にお声をかけさせて頂き、参加を調整しております。

また、そのようなUSPTO側の企画するTech Fairの開催日に都合がつかない場合でも、弊所の方からUSPTOの各TCに打診して、特別なプレゼンテーションの機会を設定することも可能です。この場合も、Tech Fairと同様の手順でプレゼンテーションを行うことになります。

Tech Fairへの参加する場合は、プレゼンテーションのタイトル、概要(1段落程度)、発表者の氏名・所属等を記入した専用フォームを、開催日の約1か月前までに、弊所弁護士経由でUSPTOに提出して申し込みます。また、その際、発表者及び質疑応答の同席者は、プレゼンテーションにおいて個別の係属中出願の出願内容には言及しないこと、プレゼンテーション内容が録音・保存され、カナダ・メキシコの審査官の教育等の目的で公開・利用される可能性があること等に関する同意書にサインすることになります。

日程・時間帯の調整等のUSPTOとの事前連絡は、弊所弁護士が行います。一般的には、米国時間の午前中(日本時間の夜間)の時間帯に設定すると、多くの審査官が参加できるので効果的です。なお、西海岸に居住している審査官の参加も見込む場合は、日本時間の夜中から未明に行うことになり、日本から参加する企業にとっては負担となることは承知しておりますが、Tech Fairの効果を最大限に発揮させるためには、このような時間帯に行うことをお勧めしております。

[費用]

参加費用は無料で、弊所も無料でサポートさせて頂いております。 USPTOは、企業が審査官を教育してくれることを非常にありがたく思っています。また、弊所は、平素よりクライアント企業に非常に感謝しておりまして、クライアント企業が審査官から高い評価を得られるようサポートすることが我々の義務であると考えております。

[発表内容]

プレゼンテーション資料の準備とプレゼンテーション部分の発表は、企業側の皆さまにお願いしております。これまで参加された多くのクライアント企業では、エンジニアと知財部が協力してプレゼンテーション資料を準備されていることが多いようです。弊所では、プレゼンテーション内容がより効果的になるように、内容・英語の表現の修正を含め、プレゼンテーション資料の事前レビュー・修正を行っております。

プレゼンテーション資料の基本的な内容としては、会社概要、製品概要、トピックスとなる注目技術の説明、今後の課題・まとめ、といった内容が挙げられます。特に、注目技術の説明の際には、なぜその技術が必要となるのかという背景、技術的に困難である課題点、そのような課題点を自社がどのようなアプローチで解決するのか、といったストーリーを詳細に説明すると、審査官は大変興味深く理解しようとします。また、同じ技術課題に対して他社はどのようなアプローチを採っていて、自社は他社に比べてどのように優位なのかといった点についても掘り下げて説明すると、より効果的です。

なお、申込時の同意書にて同意したように、プレゼンテーションにおいて、係属中の個別の自社特許出願について言及すること(プレゼンテーション資料に出願番号等を記載)は禁止されている点には留意が必要となります。

[質疑応答]

質疑応答は、Teamsのchat機能によって各審査官から書き込まれた質問内容に対して、発表者、または企業側の他の同席者が、口頭にて回答する形式となります。その際、弊所では、必要に応じて、審査官の質問内容を日本語に訳して企業側の発表者・同席者に伝えたり、発表者・同席者の日本語による回答内容を英語に訳して審査官に回答したりといった翻訳サポートも行っております。

まとめ

本稿では、Tech Fair/PETTPの概要とそのメリットについて紹介致しました。生憎のコロナ禍ではありますが、ビデオ会議で実施できるという点で、以前に比べて海外からでも参加しやすい状況となっており、上述の通り、審査官の技術理解の醸成、審査官とのコネクション増強というメリットは変わらず享受できますので、是非、円滑な権利取得・特許ポートフォリオ構築に向けてTech Fair/PETTPを活用して頂ければと思います。

今後、Tech Fair/PETTPへの参加[2]をご希望の場合、是非弊所までご連絡ください。弊所では、Tech Fair/PETTPを価値のあるプロセスと考えており、その為にクライアント企業に必要な事項について、喜んでサポートさせて頂きます。

以上


[1] https://www.uspto.gov/patents/initiatives/patent-examiner-technical-training-program

[2] 現在、TC 2600 (Communications) が2022年5月9日から5月20日の間で、TC 1700 (Chemical and Materials) が2022年6月21日から6月22日の間で、Tech Fairを企画中です。