サマリー
連邦巡回控訴裁判所(CAFC: Court of Appeals for the Federal Circuit)は、今年第1四半期に、米国国際貿易委員会(ITC: International Trade Commission)による特許に基づく337条決定に関して、Broadcom Corporation v. ITC、DBN Holding v. ITC、及びKyocera Senco Brands Inc. v. ITCの 3件の判決を下しました。2つの判決は、ITCの337条に特化した問題であり、3つ目の判決は、すべての特許実務担当者が関心を寄せる問題であるミーンズ・プラス・ファンクション (MPF: Mean-Plus-Function) クレームの限定を扱ったものです。
まず、Broadcom判決は、ITCの申立人は、調査の過程で証拠記録と審判官のクレーム構成がどのように変化するかを予測し、訴訟特許の少なくとも一つのクレームに含まれる少なくとも一つの国内製品の証拠があることを確認する必要があることを示唆しています。第二に、DBN判決は、ITCが真剣であり、その命令に違反する者に対し民事罰を課す用意があることを示しています。そして第三に、ITCは、京セラ判決において、”member “や “unit “などの無意味な単語を含むクレームには、mean-plus-functionによるクレーム解釈の制限が潜んでいることを警鐘しています。

I. 国内産業要件の技術的要件- Broadcom

輸入品が337条に違反することを立証するために、特許権者は、侵害被疑品である輸入品がその特許を侵害することを示し、輸入者によるいかなる異議申し立てに対してもその特許の有効性と執行可能性をうまく弁護しなければなりません。また、特許権者は、米国内に「特許で保護された物品に関連する…存在するか、その産業が確立過程にある」国内産業があること(「技術的要件」)、およびこの国内産業がITCの判例法におけるこれらの法定用語の定義に従って「重要」または「実質」であること(「経済的要件」)を示さなければなりません。

国内産業に関する紛争は、通常、経済的要件が絡むことが多いところ、Broadcom Corporation v. ITC (2022 U.S. App. LEXIS 5951 (March 8, 2022)) におけるCAFCの判決では、技術的要件が議論されました。

特許権者は、裁判で、国内の侵害被疑装置が外部メモリと統合して顧客と協働し、「クロックツリードライバ」ファームウェアの検索と実行を可能にしているため、技術的要件を満たしていると主張していました。しかし、ITCの審判官は、特許権者が「クロックツリードライバ」を含む特定の外部メモリを特定できなかったため、技術的要件に必要な、特許によって保護される実際の物品を提供できなかったと判断しました。

また、委員会は、Broadcomが国内の侵害被疑装置と「クロックツリードライバ」ファームウェアの具体的な統合や、ファームウェアが格納されている特定の場所のいずれをも特定できていないと判断しました。委員会は、SoCと「クロックツリードライバ」の実際の統合がなかったため、Broadcomは争点のクレーム限定を満たさない仮想の装置を提供しただけで、国内産業要件の技術的要件を満たしていなかったと説明しました。

CAFCは、Microsoft Corp. v. ITC, 731 F.2d 1354 (Fed. Cir. 2013) の先の判決を引用し、Broadcomが技術的要件を満たせなかったと委員会に同意しました。Microsoftの判決では、侵害主張の特許はサーバー・クライアント通信を扱っており、クライアントアプリケーションは特許権者の顧客が製造する携帯電話上で実行されていました。特許権者は、モバイルオペレーティングシステムを顧客に供給していましたが、そのようなクライアントアプリケーションが実際に第三者の携帯装置に実装されていることを示すことができませんでした。そのため、CAFCは、特許権者は国内産業要件の技術的要件を満たしていないと結論づけました。

Microsoftの判決と同様、CAFCは、Broadcomの特許権者が、国内産業用デバイスと「クロックツリードライバ」ファームウェアの特定の統合、またはファームウェアが格納されている特定の場所のいずれをも特定できていなかったと判断しました。Broadcomはこの認定に異議を唱えず、代わりに、CAFCが適切に放棄したと見なされる新たな理論を導入しました。特許権者は、クレームされた発明を実施する実際の物品を特定できなかったため、 CAFCは、特許権者が337条の国内産業要件を満たせなかったという委員会の判断を支持しました。

つまり結論として、申立人は、技術的要件を満たすために、例えば、関連するソースコード、テストデータ、及び/又は他の具体的な証拠などの直接的な証拠によってサポートされた、特許の一つ以上のクレームに含まれる特定の国内産業の物品を立証しなければなりません。 また、専門家の証言について、特許の範囲内にある実際の国内産業装置の直接証拠がない場合、国内産業のソースコードの操作またはその装置の操作に関する専門家の証言は、技術的な要素を満たすには不十分です。

この点に関する特許権者の落とし穴は、ITCの審判官、委員会自身、そしてCAFCが、特許権者が提案したものとは異なるクレーム解釈を自由に採用できることです。 Certain Mobile Devices with Certain Multifunction Emulators, Inv. 337-TA-1170, Initial Determination, at 61-62 (March 16, 2021) では、ITCの審判官は、「国内産業要件の技術的要件について(特許権者は)その誤ったクレーム解釈の提案と一致する証拠のみを提供している。… (そして、) 審議後の準備書面には、争点となる波形の形状に関する証拠はない。」と認定しています。したがって、特許権者は、代理人や上訴裁判所が採用する可能性のある代替的なクレーム解釈の下でも、国内産業が当該発明を実施しているという証拠を記録に含めるよう注意する必要があります。

II. 民事上の罰則 – DBN

ITCは、侵害被疑品を米国に輸入させないようにする力があるため、特許権者にとって人気のある選択肢です。この輸入排除は、場合によっては、ITCの調査の当事者ではない企業の侵害輸入品にも及びます。

多くの調査において、被申立人は、ITCが被申立人を調査から排除する代わりに、被申立人が侵害製品を米国に輸入したり、米国内で販売したりしないことを約束する同意命令を発行することに同意しています。これは要するに、委員会と被申立人の間の契約と言えます。では、被申立人がその契約に違反した場合はどうなるのでしょうか?最近のいくつかの判例では、ITCは違反した被申立人に実際に民事上の罰則を科しています。

このITCの同意命令の執行力は、DBN Holding v. USITC, 20-2342, (March 1, 2022) におけるCAFCの判決の対象となりました。ITCの当初の調査において、被申立人DNBは委員会と、以下の内容を含む同意命令を締結しました。

 

1. 提案された同意命令の締結により、[DBN]は、’380特許の満了、無効、および/または執行不能となるまで、2013年4月1日以降、’380特許のクレーム1、2、5、10-12、および34を侵害する双方向グローバル衛星通信デバイス、システム、およびそのコンポーネントを米国に輸入、米国への輸入のための販売、輸入後の米国内での販売または販売のための提案を行ってはならない。

2. [DBN]は、本同意命令の有効性について司法審査を求めること、またはその他の方法で異議を申し立てること、もしくは争うことを禁じられる. . .

4. 本同意命令は、有効存続期限が切れた、または[ITC]もしくは管轄権を有する裁判所もしくは機関によって無効または執行不能と認定もしくは裁定された知的財産権の請求に関しては、当該認定もしくは裁定が確定し再審査不能となった場合に限り、適用されないものとする。

 

したがって、被申立人は、特許を侵害しないことを約束したが、この約束には、最終的に “無効または執行不能 “と裁定された特許には適用されないという但し書きが含まれていました。

その後の訴訟において、ITCは、被申立人は、特許を侵害しないことを約束したが、この約束には、最終的に “無効または執行不能が特許侵害を継続することにより同意協定に違反したと認定し、被申請人に対し624万2500ドルの民事上の罰金を科しました。そして、その後の平行して進行していた訴訟において、連邦地方裁判所は、この特許は無効であると判断しました。

この無効判決を武器に、被申立人は、19 C.F.R. § 210.76(a)(1) &(2) に基づき、罰金の取り消しを ITC に申請しましたが、委員会は被申立人の申請を拒否しました。申請却下の控訴審で、CAFCは、ITCに対し、基礎となる337条調査で主張された特許の「無効の最終判決に基づき、19 C.F.R. § 210.76に従って民事罰を修正または取り消すかどうか」を決定するよう指示しました(DBN Holding, Inc. v. Int’l Trade Comm’n, 755 F. App’x 993, 998 (Fed. Cir. 2018))。差戻審において、ITCは、民事罰は修正または取消を必要としないと判断したため、再度申請を却下しました。

被申立人は、再び、今度は ITC が裁量権を濫用したと主張し、Certain Neodymium-Iron-Boron Magnets, Magnet Alloys, and Articles Containing Same, Inv. No. 337-TA-372 (October 1999) (“Magnets”) を根拠として控訴しました。このMagnetsの調査において、ITC は、被申立人が同意命令に反して侵害品を輸入したことに対する民事罰を取り消しましたが、これは、当事者同士が遡及的ライセンスに合意し、ITCに民事罰の取り消しを求める共同のmotionを提出していたため、ITCがこのような措置をとったものでした。しかし、CAFCは、本件にはMagnetsの判決は適用されないと判断し、当事者の和解の遡及的な性質により、被申立人の以前の行為は侵害行為ではないと結論づけました。

CAFCは、「同意命令の違反による被告人の行為は、337条に基づく調査において、ITCや申立人によって承認されたものではない」ため、本事件はMagnetsの事実とは異なると説明しました。

この判決の重要性は、CAFCの法的根拠ではなく、ITCが同意命令を執行するために多額の民事罰 を科そうとする姿勢にあると言えます。これにより、特許権者によるITCでの訴訟提起が増加し得ると思われます。

III. ミーンズ・プラス・ファンクションによる限定- Kyocera

今年1月にCAFCが下したKyocera Senco Brands Inc. v. ITCの判決は、ITCによるCertain Gas Spring Nailer Products and Components Thereof (Inv. No. 337-TA-1082) に基づく337条違反の認定を取り消し、差し戻すものでした。

委員会は、この特許が有効であり、かつ侵害されていると判断し、侵害被疑の輸入品に対して制限付き排除命令と停止命令を出していました。当事者間の重要な争点は、クレームに記載された「リフター部材」が35 U.S.C. § 112 ¶ 6に基づくMPFの限定解釈に該当するかどうかでした。委員会は、当該クレームはMPFではないと結論づけ、クレームの「リフター部材」を「その表面上にリフティングピンを有する回転可能な構成要素」を意味すると解釈しました。

控訴審において、CAFCは被申立人に同意し、委員会が「リフター部材」の限定に35 U.S.C. § 112 ¶ 6を適用しなかったのは誤りであったと結論づけました。この限定は、「手段」という言葉を含んでいないものの、十分に明確な構造を記載していないため、§112 ¶6に対する推定が覆されました。

CAFCは、当業者が、クレームに記載された「リフター部材」が “構造物の名称として十分に明確な意味を持つ “とは理解できないだろうと説明しました。この語句は、それ自体、構造を意味するものではなく、むしろ、「部材」という、機能的な表現によって修正された、非構造的な一般的表現(「placeholder」)であると認定されました。具体的に、クレーム中の関連部分は、以下のように記載されています。

A method for controlling a fastener driving tool, said method comprising:
(a) providing a fastener driving tool that includes . . . (vi) a prime mover that moves a lifter member which moves a driver member away from an exit end of the mechanism . . .
(d) actuating said prime mover, thereby moving said lifter member and causing said driver member to move away from said exit end toward a ready position.

CAFCは、このクレーム解釈について、以下のように認定しました。

この表現では、「a prime mover」 が「リフター部材」を動かすことを要求され、「リフター部材」の機能は「ドライバー部材」を持ち上げることと表現されている。しかし、「a prime mover」 と「リフター部材」がどのように接続されているかは明記されていない。また、「リフター部材」の機能に関する記述は、構造的な詳細を追加するものでもない。つまり、当業者がクレームの文言から読み取れるのは、「リフター部材」が「a prime mover」によって動かされ、「ドライバー部材」を持ち上げるということだけである。これは、純粋に機能的な説明である。

さらに、CAFCは、判決において、「明細書には、「リフター部材 」の明確かつ一義的な定義を示すものはない」とも述べています。

したがって、CAFCは、§112 ¶ 6のMPFによるクレーム解釈が「リフター部材」の限定に適用され、「クレームされた機能およびその同等物に対応するものとして明細書に記載された構造、材料、行為」のみを対象とすると解釈されると結論づけました。当事者は、明細書に開示されたどの構造がクレームされた「リフター部材」に対応するものであるかを説明していなかったため、CAFCは、さらなる検討のために本件を委員会に差し戻しました。