サマリー

  1. 拡大協働調査試行プログラム(Expanded Collaborative Search Pilot Program: CSP Program)は早期権利化に活用可能である
  2. 申請は無料で簡便な手続で行える
  3. 日米両国で申請した場合、IDS負担の軽減や、複数の関連出願の審査を一体的に進められる可能性が高いといったメリットも挙げられる

背景

米国特許庁では、審査促進のために、Prioritized Examination(通称Track One)、Accelerated Examination、Patent Prosecution Highway(PPH)といった様々な施策を実施している。しかし、Track Oneには高額な特許庁費用($4,200)がかかり、Accelerated Examinationの特許庁費用はTrack Oneより低額($140)であるものの、先行技術調査の上、Examination Support Document (ESD)の提出が課せられる為、調査コストやESD提出によるエストッペルのリスクがあり、PPHには特許庁費用がかからないものの、他国で特許可能とされたクレーム範囲と実質的に同じ範囲に限定されるといったデメリットがあった。そこで、コストのかからない実質的な審査促進策として、ファーストアクションインタビュー試行プログラム(First Action Interview Pilot Program)が活用されてきたが、この試行プログラムが2021年1月15日に終了したことを受けて、Track Oneのような高額な特許庁費用やAccelerated Examination/PPHのような制限無しに、審査を促進するための新たな方法が模索されている。

このような中、米国特許庁では、拡大協働調査試行プログラム(Expanded Collaborative Search Pilot Program: CSP Program)に関する要件とメリットに関する新たな資料 を発表した。拡大CSP Programは、米国特許庁、日本特許庁、韓国特許庁の間で実施され、インタビューの実施は要件とされない。

日米間のCSPプログラムは、第1期が2015年8月1日から2017年7月31日に行われ、これを受けて運用を一部変更した拡大CSP Programとして、第2期が2017年11月1日から2020年10月31日に行われた。今回の拡大CSP Programは、第3期として、2020年11月1日から開始されている。2021年2月4日に発行された、米国のFederal Register Noticeの要約には、以下のように記載されている 。

指定された各特許庁は、対応する該当国特許出願の先行技術調査を独自に実施する。その後、調査結果及び見解は、各国特許庁がOffice Action(拒絶理由通知: OA)を発行する前に、米国特許庁を含む指定された各国特許庁間で交換・共有される。この調査結果の共有により、指定された全て該当国特許庁の審査官は、特許性に関する最初の決定を行う際に考慮すべき、より包括的な先行技術調査結果を予め把握することができるようになる。CSPにより、米国特許庁は、OAの作成および発行前に、米国特許庁と複数の相手方特許庁との間の調査結果を交換・共有することによる審査プロセスに与える影響を検討することができる。

米国特許庁によるCSP の要件

  • 該当国内の特許出願であること
  • 各国特許庁において審査が開始されていないこと
  • 各国出願が同一の最先の優先日を有すること(かつ、AIA発行日2021年3月16日以降であること)、及び出願明細書によって発明特定事項がサポートされていること
  • 申請書(無料)を米国特許庁に提出すること、及び、相手方の特許庁にも申請書の提出または請求を行うこと
  • 各国出願において、全ての独立請求項に対し、実質的に対応する独立請求項を有すること
  • 各国特許庁が情報共有することに対する同意
  • 対応するクレームをリストにして申請書に記載すること、及び、該当国の言語に翻訳すること
  • 1出願あたり、独立請求項3項を含む全請求項20項以内であること
  • 米国出願において多項従属項を含まないこと

その他の制限

  • 各特許庁において、年間400件のみ受理される
  • 2022年10月31日に終了予定

CSPのメリット

出願人にとって、複数の特許庁から審査の攻撃を受けるリスクがあるように見えるが、以下のようなメリットの方が大きいと考えられる。

  • 審査係属期間を大幅に削減することが可能である。米国特許庁による発表資料にある通り、申請が受理されてから最初のOA発行までの期間は約4ヵ月であり、一般的な期間(1.5-2年)よりも短い。
  • 各国特許庁において、整合性があり安定的な権利取得が可能となる。
  • PPHの場合は、第1庁が特許可能と判断した請求項に第2庁の請求項を対応させる必要がある一方、CSPでは、最初の審査結果が通知された後は自由に補正することが可能となり、出願人の権利範囲設定の自由度が高い。
  • 米国特許庁と日韓いずれかの特許庁に申請した場合、日本特許庁/韓国特許庁の審査官が最初の審査結果において提示した文献(引用文献及び先行技術文献)については、米国特許庁への情報開示陳述書(IDS;Information Disclosure Statement)提出の負担が軽減する。米国特許庁の審査官は、日本特許庁が最初の審査結果において提示した文献(引用文献及び先行技術文献)につき、引用文献の通知フォームである PTO-892 に記載することとなっている為、出願人が当該引用文献をIDSとして提出する必要がない。
  • 日本特許庁に対しては、技術的に関連する一群の出願(最大5件)をまとめて申請することができ、日米の特許庁に申請した場合、日米両国の審査官は、最初の審査結果を同時期に発送することになるため、出願人は日米において同時期に一群の出願の審査結果を得ることが可能となる 。

特に、米国に対応出願を出願する日本企業及び韓国企業(または日本・韓国に出願する予定のある米国企業)は、本CSP試行プログラムを利用することにより、米国での審査を促進し、自国・米国の両国でより強く安定的な権利化を図れる可能性が高い。更に、本試行プログラムの申請について、各特許庁の庁費用は無料である。